• 咬合異常感(咬み合わせの異常感)でお困りの方へ

咬合異常感(咬み合わせの異常感)でお困りの方へ

概念

咬合異常感とは、咬み合わせの調整、冠せ物や義歯の新製などを繰り返し行っても改善しない,義歯や咬合の慢性的な異常感や不快感を訴える症候群です。
本人の考える「完璧な咬み合わせ」を求めて、多数の歯科を転々とする患者さんもいます。
咬み合わせの異常感にとどまらず、多彩な全身的な不定愁訴を伴います。
例えば、頭痛、首、肩の痛み、腰痛、めまい、姿勢の歪みなどです。

痛みの症状の方と同様に、比較的女性に多く中高年の方がメインで、性格的に真面目で几帳面、完璧主義の方が多いように思います。

ちなみに、我々は日本歯科心身医学会で使用している「咬合異常感」という用語を使っていますが、「義歯不適応症」、「義歯ノイローゼ」、「義歯関連不定愁訴症候群」などとも呼ばれており、未だ統一されていません。
海外では、“Phantom Bite Syndrome’’,“Occlusal Dysesthesia”などと呼称されています。

原因

従来は様々な精神疾患との関連が述べられていましたが、我々は、口腔感覚の異常や原因不明の多彩な身体症状を引き起こす「脳内神経伝達物質レベルの異常」と、身体症状を義歯や咬み合わせと関連付ける「思考や記憶に関わる高次中枢機能の異常」の2点にあるのではないかと考えています。

診断基準

  1. 何度調整しても解消しない咬合に関する強い異常感
  2. 補綴や矯正治療が契機(仮歯や調整中は問題ないが、ほぼ完成直前に発症する)
  3. 歯科的な異常を見出せない、もしくは過剰な咬合調整
  4. 全身的不定愁訴(頭重感、めまい、肩こり、腰痛、倦怠感など)

これらに加えて、患者さんの自己診断に基づく強い歯科治療の要求、歯と全身症状との誤った関連づけ、過去の写真や歯列模型、暫間義歯などを持参するなどの特徴も見られます。

治療

原因である口腔感覚のバランスの乱れを修復する必要があります。
そのためには、まず繰り返されている歯科治療を中断し、現在の病状に対する誤った理解や患者さんの思い込みを修正するため時間をかけた分かりやすい説明を懇切丁寧に行います。
そして、敏感になっている咬合感覚を落ち着かせるために、抗うつ薬などによる薬物療法も導入します。
患者さんは「この歯の、ここの咬み合わせを治さないといけない」などと、咬み合わせの治療を進めることに強くこだわるため、心身医学的な治療の導入に難航することがしばしばです。
したがって、咬み合わせの感覚が安定した後なら、咬合などの歯科治療を進めることができることを繰り返し粘り強く説明する必要があります。
本症が歯科心身症の治療の中でも一番労力がかかると言われる所以は、こうした説得や丁寧な説明により多くの時間と忍耐が必要とされるためです。

予後

心身医学的な治療への導入ができれば約70%で良好な予後が報告されています。ただし、説得が不調に終わり治療開始前に脱落されてしまう患者さんも少なくありません。その場合でも、その後の他院での歯科治療後に戻られ、“先生、やっぱりだめでした”と観念されて、ようやく治療導入に至る症例も経験されます。

文献

  1. Marbach JJ.: ’’Phantom bite’’: classification and treatment. J Prosthet Dent. 49:556-559, 1983.
  2. Akira Toyofuku: Psychosomatic problems in dentistry. Biopsychosoc Med. 10: 14, 2016.
  3. Leon-Salazar V, et al.: Pain and persistent occlusal awareness: what should dentists do?. J Am Dent Assoc. 143:989-991, 2012.
  4. Akira Toyofuku, et al.: Treatment of phantom bite syndrome with milnacipran – a case series. Neuropsychiatr Dis Treat. 2006 September; 2(3): 387–390.
  5. Motoko Watanabe, et al.: Psychiatric comorbidities and psychopharmacological outcomes of phantom bite syndrome. J Psychosom Res. 2014.11