非定型歯痛患者の精神疾患併存について
(Psychiatric comorbidities in patients with Atypical Odontalgia.)

みなさんこんにちは。

今日は、昨年末に発表された非定型歯痛の論文の要旨を紹介します。東京医科歯科大学歯科心身医学分野大学院の三浦先生がまとめた論文です。非定型歯痛の臨床的な特徴が良くわかる大変参考になる内容です。

 

タイトル
非定型歯痛患者の精神疾患併存について(Psychiatric comorbidities in patients with Atypical Odontalgia.)

目的

非定型歯痛(Atypical Odontalgia)は口腔内外の診査ならびにX線検査等の各種検査において明確な原因がないにも関わらず慢性の歯痛を訴える患者群である。
これまで非定型歯痛とうつ病の併存についての報告はあるものの、本症と精神疾患の併存についての研究はほとんどされていない。そこで、非定型歯痛の臨床的特徴と精神疾患の合併との関連を明らかにするために、診療録を元にレトロスペクティブな解析を行った。

方法

対象は東京医科歯科大学歯学部附属病院歯科心身医療外来を受診し、非定型歯痛と診断された383名。診療録ならびに精神科医からの紹介状をもとに非定型歯痛の患者の臨床的特徴ならびに精神医学的診断を調査した。また、疼痛の評価尺度はSF-MPQ(the short-form McGill pain questionnaire )やVAS (visual analogue scale)、うつ状態はSDS (Zung’s self-rating depression scale)を用いてを分析した。

結果

383名の非定型歯痛患者のうち177名(46.2%)が精神疾患を合併していた。最も多かったものはうつ病(15.4%)でついで不安障害(10.1%)であった。双極性障害(3.0%)ならびに統合失調症(1.8%)といった重篤な精神疾患の併存は稀であった。

217名(56.7%)の患者は歯科治療を契機に症状が出現したと訴えた。そのうち55名(14.4%)は根管治療、47名(12.3%)は抜歯、46名(12.0%)は補綴治療が契機となった。

また、精神疾患併存を認める患者群は精神疾患の併存を認めない患者群と比較すると、SDSのスコアが高く、睡眠障害の併存が多く、SF-MPQでは感情項目である“Fearful”(恐ろしくなるような痛み)と“Punishing-cruel”( 耐え難い身のおきどころのない痛み)のスコアとVASの値が有意に高かった。

結論

歯科治療は必ずしも非定型歯痛の原因因子ではなかった。非定型歯痛患者の約半数に精神疾患の併存を認めたが、うつ病や不安障害が主で重症例はまれであった。VAS、SDSおよびSF-MPQは非定型歯痛患者の潜在する精神疾患の併存を知る上で役立つ可能性が示唆された。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022399917309169