口腔異常感症でお悩みの方へ

概念

お口の何とも言えない様々な不快感を総称した口腔異常感症(oral dysesthesia)という病気について説明していきます。

「口の中がネバネバ,べとべとする」などの乾燥感、「白いドロドロが出てくる」などの異物感や唾液過多感、「食べていないのに変な味がする」といった味覚異常など、お口の触覚や味覚に関わる異常感覚を訴える症候群をいいます。

お口の痛みの方に比べても、密かに悩まれている方は少なくなく、また、痛みの症状と併発している症例もしばしば経験されます。

中高年に多のですが、男女の割合は大きな偏りはありません。
きっかけは歯科での治療の場合も多いのですが、特に原因が思い当たることがない方も多いです。

症状

症状としては、「ネバネバ、ベトベトする」、「パサパサして不快」、など、唾液の性状、分泌過多、口腔乾燥感など唾液や口腔乾燥に関わる症状や、「ザラザラする」、「ネバネバした膜が張っているよう」など何とも言えない不快感を訴えます。

また、味覚に関わる症状も珍しくありません。甘、塩、酸、苦味は判別できるものの、「おいしくない」、「本来の味ではない」といった味覚の異常感や、何も食べていないのに、「苦みがある」、「甘酸っぱい変な味がする」など、異味覚の訴えも多く聞かれます。

さらに、異物感に近い症状も多く聞かれます。例えば「ドロドロしたものが出てくる」、「つぶつぶしたものがある」、「歯に粘着物が付いている」など異物感を訴えます。
「歯茎に釘がささっているよう」、「歯にテープが巻き付いている」など、よりグロテスクで奇妙な訴えもまれにあります。
これらは、本症のなかでも比較的異常感覚の程度が強い症状であり、専門的には「口腔セネストパチー」ともよばれます。

原因

本症の原因は未だ不明ですが、近年の脳機能画像研究から、精神疾患の有無にかかわらず、脳機能のアンバランスが奇妙な口腔症状に関与しているようです。
当院に非常勤で勤務している梅崎先生の大学院時代の研究ですが、脳血流シンチグラフィーで広範な脳領域に左右差(図)が認められました。

ちょっと難しい話になりますが、妄想のような思考の障害に由来するというより、脳内の口腔感覚の情報処理過程に何らかの障害が起こることから生じていると考えられます。
患者さんご自身は、末梢の感覚器官でもあるお口の中に、はっきりと不快な感覚を実感しているのに、その元凶が、実は脳のなかで起こっているということにも、この病気の難しさがあります。

治療法

唾液の分泌量や性状は正常範囲で、舌乳頭の萎縮や亜鉛不足もない方が多く、歯科や耳鼻科、内科を受診しても異常なしという説明される患者さんがほとんどです。
治療も、うがい薬や漢方薬の処方やマウスピースの装着などが試されることがありますが、効果はないか、あってもはっきりしないことが多く、歯科医も対処に困ることがしばしばです。

本症が何らかの脳内の機能のアンバランスから生じていると考えれば、口腔内への対症療法的な処方では効果は期待できず、やはり脳に効く薬剤での治療が必要になることがご理解頂けるでしょう。

したがいまして、舌痛症非定型歯痛などお口の痛みの症状と治療法はほぼ同様なのですが、痛みのそれとはやや毛色が異なるもので効果がある場合が多いようです。
ただし、この症状にこのお薬というような確立されたものはありません。症状も痛みに比べてしつこい場合が多く、治療期間も長くなる方が多い印象です。

患者さんには、まずは当初の症状の半分になることを目標にしましょうとお伝えします。症状の完遂というより患者さんが症状に上手く付き合っていけるような医療者側の援助的な姿勢が求められます。
また、定期的な口腔内の丹念な観察も欠かせませんが、症状の有無を議論しても無意味で、患者さんの苦痛を肯定し、しっかりと受け止めることが大切です。

さらに異物感が強く奇異でグロテスクな場合や症状が口腔外にも存在する場合は、精神科で言う「セネストパチー」に近い状態と考えられ、精神科専門医と連携して治療に当たっていきます。

文献

1: Brain perfusion asymmetry in patients with oral somatic delusions
Yojiro Umezaki, Ayano Katagiri, Motoko Watanabe, Miho Takenoshita, Tomomi Sakuma, Emi Sako, Yusuke Sato, Akira Toriihara, Akihito Uezato, Hitoshi Shibuya, Toru Nishikawa, Haruhiko Motomura, Akira Toyofuku
Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2013 June; 263(4): 315–323. Published online 2013 January 29. doi: 10.1007/s00406-013-0390-7
PMCID: PMC3668126

2: Comparison of cerebral blood flow in oral somatic delusion in patients with and without a history of depression: a comparative case series
Motoko Watanabe, Yojiro Umezaki, Anna Miura, Yukiko Shinohara, Tatsuya Yoshikawa, Tomomi Sakuma, Chisa Shitano, Ayano Katagiri, Miho Takenoshita, Akira Toriihara, Akihito Uezato, Toru Nishikawa, Haruhiko Motomura, Akira Toyofuku
BMC Psychiatry. 2015; 15: 42. Published online 2015 March 10. doi: 10.1186/s12888-015-0422-0
PMCID: PMC4364484

口腔異常感症に関する論文や考察に関して、院長ブログで紹介しています。こちらもお読みください。

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口腔異常感症でお困りの方へ

口腔異常感症または、類似する症状をそのまま放置しておくことはストレスに繋がり、日常の活気や集中力を奪ってしまいます。

一般的な治療と違うアプローチが必要なため、診療可能なクリニックが限られていることが患者様のお悩み解決に時間を要してしまっている可能性もあります。

ラクシア銀座歯科クリニックでは、無料相談を実施していますのでお気軽にご相談下さい。