口臭恐怖症でお悩みの方へ
概念
口臭症とは、他人に認識される明らかな口臭を認めないが、他人の偶然の仕草と口臭を関連付けたり、口臭のために他人に迷惑を掛けているなどと確信し、執拗に口臭があると訴えたり、一人思い悩む病態を言います。
口臭の国際分類ではhalitophobia(口臭恐怖症)と記載されています。
口臭は歯科の日常診療でしばしば話題になり、口臭除去を目的に歯石除去やクリーニングなどの歯科治療を求めて受診する患者も少なくありません。
さらに、本症の患者さんは、心理的な関与を頑なに否定し、心療内科や精神科への受診は断固として拒否する場合が殆どです。
そのため、歯科医師自身による対応が必然的に求められるため、従来から歯科心身症の代表的な疾患として臨床や研究が進められてきました。
診断基準
- 自分の口臭が他人に不快感を与えている(迷惑になっている)と感じる。
- そのことは間違いない事実であると思う。
- それは相手の仕草や行動から分かる。
– 鼻に手を当てる、口を覆う、距離を開けられる、窓を開ける、など。 - 原因は、歯や口の中にあるので早く治したいと思う。
– それなのに歯科では「特に問題ない」と言われる。
– 内科や耳鼻科でも「異常なし」と言われる。 - 時と場合によって、症状の変動がある。
– 自宅にいる時より、教室や職場で悪化する、など - このにおいさえ無くなれば、もっと自由に何でもできるのにと思う。
- その他、以下のような体験はしていない。
– 頭の中がざわざわする感じがする
– 考えたことが筒抜けになる
– いろんなことが「あべこべ」になる
原因
咬合異常感と、ほぼ同様のメカニズムが考えられています。
すなわち、脳内神経伝達物質のバランスの乱れや、思考や記憶、特に嗅覚や視覚・聴覚の情報処理に関わるより高次の脳機能の問題が関与していると推測されています。
治療
口臭症の治療は歯科心身症の中でも、咬合異常感と並んで慎重かつ粘り強い対応が特に求められる疾患です。
なぜなら、患者さんの自己の口臭に対する確信、心理的なアプローチへの拒絶が非常に強いためです。
科学的、論理的な説明を丁寧に行っても簡単に誤った認知が修正されることはありません。
性急な対応は、逆に警戒心や猜疑心を強めてしまい、結果として通院が途絶えてしまう恐れさえあります。
まずは、患者さんの、不安や恐れ、これまでの苦痛や苦悩を、しっかりと受け止めつつ、自然に自己表現を促していく対応が求められます。
そのような作業を通して信頼関係を築いたうえで、薬物療法や心理療法を導入していきます。
文献
- Murata T, et al.: Classification and examination of halitosis. Int Dent J. 2002;52:181–186.
- Toyofuku A, et al.: The efficacy of fluvoxamine for “halitophobia” Jpn J Psychosom. 2001;16(1):81–5.
- 豊福 明, 都 温彦:【頭頸部の心身症】 口臭症 心療内科. 2003; 7 (2): 115-119.