非定型歯痛の症例
今回は、非定型歯痛の症例をご紹介します。内容はご本人が特定できないように脚色していますのでご了承ください。
5年前から、きっかけなく始まった右上奥歯の慢性の痛みの症例です。近くの歯医者さんから歯科大学を紹介され非定型歯痛の診断で抗うつ薬の治療を受けましたが効果がなかったようです。その後、お近くのペインクリニックにて、他の薬剤を試されましたが、副作用で続けられませんでした。
具体的な症状は、”じわじわ、じんじんした鈍い痛みで、時々下の奥歯も痛む、熱いものがしみる。”とおっしゃられていました。
X線写真で異常を認めず、念のため歯科用CTで精査しましたが、痛みにつながる初見はありませんでした。大きな既往歴も無く、義理のお母様の介護負担で疲れはあるようですが、大きなストレスはないとのことでした。温度で反応があるということで、根っこの病気(根尖性歯周炎)も疑われます。また右側だけの痛みということで、三叉神経痛の可能性もありました。
ただし、痛みの症状が時間によって変動したり、下の歯に場所が拡大するといった、症状の変動性があり、CTでも異常を認めなかったため、当院の診断も非定型歯痛としました。
ご本人には、”いままでお薬が合わなかったようですが、まだあきらめるのは早いです。一緒に頑張りましょう”とお伝えし治療を開始しました。幸い2週間程度した頃からこちらでの治療に反応が現れ、1ヶ月半でほぼ”痛いのは無くなった。しみるのだけ”と改善し、3ヶ月で”ほぼ忘れていられるくらい”となりました。
ところがその2週間後、大丈夫かなと思った矢先に、一時的に症状が再燃してしまいました。よくお伺いすると、介護などお疲れが溜まっていたようでした。疲れがたまると痛みがぶり返すことがあります。
その後はすぐに痛みは落ち着きました。しみる症状は少し残っていますが、食事に支障ない程度ということで、初診から7ヶ月経ったころからお薬を減らし始め、1年足らずで卒業されました。
非定型歯痛も舌痛症と同様の治療経過をたどることが多いですが、微妙な歯の症状により診断に迷うことが多いです。治療を開始しても慎重に経過を見ながら、常に歯の状況の確認は怠らないようにしないといけません。
症例については、またご報告していこうと思います。