非定型歯痛 症例①
50代女性。千葉県在住。職業:主婦 平成〇✖年△月初診
主訴
左上奥歯が痛い。一日、じりじりと痛い。特に熱い物でしみる。きっかけが思い当たらない。
診断
非定型歯痛
治療
薬物療法および症状への対処法や生活指導などのカウンセリング
病歴
当院初診5年前から特に誘引なく生じた慢性の歯痛。地元歯科医院を受診し同部は問題ないと言われたが、念のため被せ物の作り直しを進められ治療されるも変化無かった。
その半年後、別の歯科医院を受診し、以上が見当たらないため歯科大学病院を紹介された。歯科大学病院を受診し、非定型歯痛と診断され、鎮痛目的に抗うつ薬が投与されたのの若干の改善に留まり、その後の鍼治療も奏功せず。
さらに、近医ペインクリニックで他の薬剤が処方されるも不眠が出現し中断した。ネットで当院を調べ、内科主治医から紹介にて当院初診となった。
治療経過
口腔内の丁寧な診査、X線撮影、口腔内写真撮影、唾液量検査、病歴聴取、生活状況などの問診を行った。患歯の左上第二大臼歯は15年前に装着されたものだが、二次齲蝕はめられず、適合も良好であった。
打診痛や動揺、頬側歯肉に圧痛を認めず、歯周ポケットも3㎜程度で歯科的な所見に異常は認めなかった。患者の強い希望もあり、歯科用CTにて精査したが、破折線なども認めず、根尖部に僅かな低吸収域を認めるものの訴えに相応する所見を認めなかった。
食事中や飴やガムを口にするとはまぎれる、左側のみの片側性だが時に下顎にも拡大するなど症状の変動性を認め、訴えの性状、NSAIDsが無効でること、慢性の経過から上記診断となった。
ただし、片側性であるため三叉神経痛を疑い念のためMRIでの精査も勧めたが、閉所恐怖症であるからと抵抗感が強く、経過によって症状改善が得られない場合は検査を再度お勧めすると説明し了承された。
非定型歯痛についての病態と治療方法、治療に伴うリスクとベネフィット、大まかな治療期間や通院頻度などについて説明を行い、同意を得たため、ごく少量の鎮痛補助薬の処方を開始した。
当初の症状の程度は比較的重度ではあったが、治療開始1か月で当初の約50%まで痛みは軽減した。開始2か月で日中のじりじりした痛みは消失、熱い物を摂取した際の痛みが残存したが頻度は減少していった。
治療開始5か月目に一時的に痛みが再燃したが、程無く落ち着いた。その後も改善傾向は続き、治療開始から8か月で当初の症状の10%まで改善し、服薬も忘れることが出てきた状況となり、処方の減量を開始した。
その後の減量途中で、体調悪化や、親族の不幸などの疲労が影響して再燃することが数度あり、一時的に処方量を戻すことで落ち着くなど、減量に時間がかかったが、概ね症状の経過は順調であった。
経過良好のため治療開始後1年10か月で治療終了となった。