舌痛症の症例

舌痛症に対するアミトリプチリンの効果と心電図の関係 2019.01.29

みなさんこんにちは。院長です。

寒い毎日が続いておりますが、みなさんは、いかがお過ごしでしょうか。

 

さて、本日は、昨年ご紹介したお口の痛みの治療に使われるお薬の効果と心電図の関係についての論文の続編をご紹介します。

東京医科歯科大学大学院の渡辺毅先生が、日頃から研究指導を頂いている内科医の長嶺敬彦先生のご指導を得ながらまとめたものです。

https://www.sciencerepository.org/QTc-in-burning-mouth-syndrome_NNB-1-105

今回はは症例を女性の舌痛症(Burning Mouth Syndrome)に絞って集めました。症例数も多くなり、前回見出した、「amitriptylineが痛みによく効くとQTcが延長し、効かないとQTcが短縮する」という傾向を、より自信をもって言えるようになりました。
研究の成果につきましても引き続きご案内してまいります。

舌痛症の症例② [2018年10月15日]

症例② 50代女性。東京都〇〇区在住。職業:主婦 平成〇×年△月初診 舌の真ん中と先がヒリヒリしびれたようで、毎日カレーを食べているよう。夕方から特に痛くなる。首から肩も凝って痛くなる。左下のブリッジの治療をしてから始まった。 診断 舌痛症 治療 薬物療法および症状への対処法や生活指導などのカウンセリング ... 続きを読む

舌痛症の症例① 2018.10.07

舌と口の中がピリピリ、ヒリヒリしてつらい。家事も手につかないくらい。不思議と日によって痛む場所が違う。内科の血圧と胃の薬を飲んで苦い味がしてからはじまった。逆流性食道炎の影響といわれて薬飲んだり、鉄と亜鉛の薬も飲まされたけど変わらなかった。口のしびれで食事もおいしくないし、我慢の限界にきている

診断

舌痛症

治療

薬物療法および症状への対処法や生活指導などのカウンセリング

治療経過

舌痛と味覚異常の症例。当院受診の半年前の内科での処方薬服用後が契機。地元の内科クリニック、総合病院口腔外科、耳鼻科専門病院へ受診も改善せず、困った本人がインターネットで検索し当院初診。

口腔内の丁寧な診査、X線撮影、口腔内写真撮影、唾液量検査、病歴聴取、生活状況などの問診を行った。口腔内に症状に相応する所見は認められず、夕方から夜間に悪化、食事中はまぎれる、口蓋や口唇にも拡大、部位も変動するなど症状の変動性を認め、訴えの性状、慢性の経過から上記診断となった。舌痛症についての病態と治療方法、治療に伴うリスクとベネフィット、大まかな治療期間や通院頻度などについて説明を行い同意を得たため、ごく少量の神経痛を和らげるお薬の処方を開始した。

比較的重度の症状ではあったが、治療開始初期から反応は良好であった。2か月後には症状は8割がた消失し、摂食など日常生活もほぼ元通りに回復した。半年後には症状はほぼ消失し、数か月の維持療法の後に処方減量したが症状に再燃なかった。経過良好のため治療開始から12か月後に治療終了した。

グラフ1 縦軸(VAS)、横軸(週)


VAS(Visual Analogue Scale)=一番ひどい症状を100として、現在の症状がどの程度かを患者さんが視覚的に指示したものを数値化したスケールです。

舌痛症の治療と唾液量に関する論文(Amitript 2018.06.06

みなさんこんにちは。院長です。

ブログの更新が滞りご無沙汰をしましてすみません。

東京は小雨で早くも梅雨入りの様子ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

今回は、舌痛症の治療に使われる薬剤と唾液量に関する論文をご紹介します。東京医科歯科大学歯科心身医学分野大学院の渡辺毅先生の報告です。以前に大学院の川崎カオル先生が報告した研究をグラフィカルに、そのメカニズムを含めてまとめ直してくれたものです。

Amitriptyline increases salivary flow in treatment-resistant burning mouth syndrome: What is the underlying mechanism?

舌痛症の治療に三環系抗うつ薬が良く使われますが、 副作用の一つとして口腔乾燥が知られています。

今回の研究は、三環系抗うつ薬のアミトリプチリンを用いた際、唾液の減少が見られる患者さんでは症状の改善が見られ、 むしろ唾液が増えてしまう患者さんでは治療抵抗性を示すという報告です。

今後、さらに症例が蓄積されることで、唾液量と治療反応性のより詳しいデータや、薬物療法と唾液量の関係など、より治療に役立つデータが明らかにされるでしょう。

このような薬の副作用に注目した研究を行うことで、舌痛症などお口の痛みや不快感など歯科心身症の治療における、安全な医療の提供に繋がることも期待されます。

 

舌痛症の症例 2017.08.05

今回は、実際の症例の経過をご案内しようと思います。

年明けに、舌の痛みで”この病気は一生治らない。付き合っていくしかない”と地元の病院で言われた患者さんについて少し触れましたが、その後の経過をご紹介します。

昨年末にお電話で相談の後、正月明けに初診されました。舌が”剣山で刺されたように痛い”と訴えておられ、食事中も痛むほどで、体重も7キロ痩せられ比較的重症の方でした。

年末年始の間に、地元の総合病院から、舌痛に対してH2ブロッカーという胃薬と、漢方薬が処方されたようですが効果は一時的でした。再び痛みがかなり悪化してきたため、当院で抗うつ薬での治療を開始しました。

抗うつ薬で痛みの治療を行うというご説明を丁寧に行いご理解を頂き、極めて少量の処方から始めました。大きな副作用もなく服用を続けることができ、幸い開始から1か月で症状は大幅に改善し、その後は多少の波はありましたが、開始後3か月で、ほぼ痛みは消失しました。

3か月の維持療法の後、現在、お薬は減量中ですが、再燃も無く順調に経過しています。体重も戻られ表情も見違えるように明るくなり、ご本人も大変喜んでおられます。

このように順調に行く方ばかりではありませんが、典型的な経過ですのでご紹介しました。

歯科を始め、医療関係者で舌痛症など、このような病気に理解がある方はまだまだ少ないのが現状です。ましてや、専門に治療する施設は、ごくわずかです。

”治らないよ”と言われた方、大学病院、総合病院など、どこに行っても良くならなかった方、”気のせい”などと言われた方や、多数の医療機関を回られたり、揚句、あきらめてしまっている方も多いと思います。そんな現状ですので、何とかしていかなければなりません。

また症例については、追ってご紹介していきますので、少々お待ちください。

舌痛症は治りにくいのですか?? 2017.02.26

さて、表題の言葉ですが、先日お電話でお問合せ頂いた方が仰られていた言葉です。

決してそんなことはないのですが、そのように考えられている患者さんが多いのです。

近くの医療機関に行かれても、しっかりとした診断、治療がなされることが少ないということが影響しているのかもしれません。。。

年始から治療を開始している、3時間かけて高速バスで通院されている方などは、地元の総合病院の口腔外科で、”この病気は一生治らない。付き合っていくしかない”と言われたそうです。その冷たい言葉で、より一層具合が悪くなってしまっていました。その後とても良くなっていますが、詳細は別の機会にご紹介します。

舌痛症や非定型歯痛など、痛みの症状は我々が扱う症状のなかでも比較的治りやすい病気と考えています。

歯科を始め、医療関係者でこのような病気に理解がある方はまだまだ少ないのが現状です。

”治らないよ”と言われた方、大学病院、総合病院など、どこに行っても変化が無かった方、あきらめず是非一度ご相談ください。

舌痛症について(7)治療法は?② 2016.10.25

みなさんこんにちは。いかがお過ごしでしょうか?

今回も引き続き、舌痛症の治療について触れていきます。

前回はお薬の治療の概要についてご説明しました。それと同等以上に重要な、患者さんへの生活指導やカウンセリングの内容について触れていきます。

カウンセリングといっても専門的な難しいことをするわけではありません。端的に言えば、患者さんの困りごとをしっかりと理解して受け止め、わかりやすく親切丁寧な説明を十分に行うということになります。

まず、実際に治療に入る際、ご病気の説明にじっくり時間をかけます。ご病気の「原因」については、特に歯の治療が原因と考えている患者さんは、ことさら重要です。理解が十分ではないままでは、お薬をのんでも十分効果が得られないことがあるためです。逆に、ご病気の説明を十分に受けられるだけで、「安心感からなんでしょうか、帰りの電車の中で症状がよくなってしまった」と仰られる方もいらっしゃるくらいです。

このご病気で、食事が摂れない、夜も眠れないといったことはまれで、お元気な方も多く、外見からほとんど判断できません。ですので、周囲の方から、「気にしすぎ」、「気のせい」、「気にしないようにしたらいい」、「メンタルの病気じゃないか」などと思われがちですが、決してそうではありません。「どこの病院でもなんともないといわれる」だけではなく、「家族や友達にも理解されなかったのでつらかったです」と述べられる方も少なくありません。

このような、ご家族など周囲の方の病気への理解も重要です。服薬の管理や副作用のチェックなどの協力も大切です。特にご高齢の患者さんにつきましては、一度は患者さんの受診にご家族が付き添われて、一緒にご説明を聞いて頂くようお願いしています。

また、普段の生活指導も重要です。十分な睡眠、三度の食事など規則正しい生活、心身の疲労をためない、適度な運動をするといった、ごく一般的なものです。これらが、お口の痛みや感覚の乱れにも影響すると考えているのですが、案外欠けている方も多いものです。併せて、あまりに辛いときは、可能ならご家族に家事の分担を頼んでみるとよいでしょう。こうしたご家族のサポートも回復によい効果をもたらすとされています。

その他、行動や認知に焦点をあてた治療も取り入れますが、あくまでお口のご病気ですので、あまりそれと分かるようなものではなくエッセンス程度にしています。

また、当院の診察では、その基本に背景問診とMAPSO問診を取り入れています。以前に取り上げました米国で開発された内科医向けのPIPCセミナーで院長が5年前から習得してきた問診法です。これにより患者さんとの距離がいっきに縮まり、その後の治療の遂行に大切な、患者さんとの信頼関係を築くのに役立ちます。問診法ですので、厳密に言えばカウンセリングとは違いますが、その効果を日々実感しています。

今回は、このへんで。内容がまとまりに欠けてしまいすみません。当院のオーダーメイド治療の一端がおわかりいただけましたら幸いです。

舌痛症について(6)治療法は?① 2016.10.20

みなさん、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

今回は、舌痛症シリーズのつづきで、治療法について触れていきます。

治療法としては、一般的に、消炎鎮痛薬、ステロイド軟膏、うがい薬、保湿剤、ホルモン補充療法などが試みられることもあるようですが、あまり効果はありません。あったとしても、多少いいかなという程度で効果がはっきりしません。もちろん、以前に触れました、他に舌に痛みを起こす病気がある場合は、このような治療も並行しておこないますが、舌痛症の本態には残念ながら効きません。

現在では舌痛症には、主に抗うつ薬が使用されています。約50年前から少量の抗うつ薬の有効性が知られています。これは、うつなどメンタルへの効果ではなく、慢性的な痛み(慢性疼痛)そのものに対する効果をねらったものです。

お口の症状に抗うつ薬などと聞くと、強い抵抗感を抱く方が少なくありません。ご存じない方も多いのですが、実は、抗うつ薬は、腰痛などの慢性疼痛や、片頭痛の予防薬としても、世界中で広く使われています。片頭痛への有効性から、脳の過敏さを和らげてくれる効果があるとも考えられています。舌痛症が神経痛の一種で脳の機能のバランスが崩れていると、原因についての回で説明しましたが、このような理論的なことからも、抗うつ薬の有効性が説明できます。

また、痛みの症状に使う場合は、本来のメンタルのご病気の方に使う量に比べ半分以下の極めて少量で効果が表れることが知られており、実際の効き方からもメンタルに対するものとは違う、別の作用があると考えられています。

服用を開始して、約7割の方が1カ月くらいで痛みが治まってきます。さらに、その後も3~6カ月程度は、痛みや不快感のぶり返しがないよう服用を続けます。副作用が出ないかなども注意しながら薬の種類や量を加減していきます。症状が落ち着けば、徐々に減量して止めていくことができます。

ただし、様々なお薬があり、各患者さんの病状に合わせながら使い分けていく必要があり、その選択には工夫や経験が必要です。単なる機械的な処方では効果が出ないことも多く、患者さんとの十分な信頼関係を基にしなければ、十分な薬効が引き出せないことも経験的に知られています。

我々の調査では、お薬を継続できれば7割の方は改善します。基本的にには治る可能性の高い病気ですので、ためらわずご相談されることをお勧めします。

当院では、抗うつ薬による治療をはじめ、その他、抗てんかん薬など幅広く使用します。でも、やっぱりちょっと抵抗がありますという方には、抗うつ薬などに比べると確率は低くなりますが、漢方もお出しします。冒頭に挙げた、軟膏やうがい薬なども必要であれば併用していきます。そのあたりの選択も、個々の患者さんごとに完全オーダーメイドになります。

今回はこの辺で。次回も治療法についての続編です。

舌痛症について(5)原因は? 2016.10.16

舌痛症についての続きですが、今回は、その原因についてお話します。

舌痛症の原因については、これまで、メンタルの影響、ホルモンの異常、神経痛の一種、口腔内の幻(まぼろし)の痛み、炎症の一種など様々な仮説が唱えられてきましたが、未だ病因は特定できていません。

目に見える原因が無いため、”精神的なもの”などと解釈されがちですが、実際はうつ病など精神科疾患に患っていた方は2割に届きません。また、過去にうつ病の病歴があっても、うつ病自体は良くなっていることがほとんどで、統合失調症や認知症の方も稀です。元々、元気にされていた方が、お口の症状で悩まされて、それからうつっぽくなったとおっしゃられます。ただし、割合は低いのですが、メンタルの症状が強くなっている方は、専門医の先生の治療が必要になります。紹介すべきかどうかの見極めとともに、そのような患者さんがスムーズに受診できるような良好な医療連携も重要です。

話を、「原因」に戻しましょう。まだはっきりしていないのは間違いないのですが、近年は、舌痛症を神経障害性疼痛の亜型(神経痛の一種)とらえる考えが支持されてきています。神経のなかでも抹消だけではなく、中枢が大きく関与していると考えられています。とはいえ、原因を一つに特定することはできず、一般的には個々の症例ごとに様々な原因が複合して影響していると思われます。

舌痛症の約6割の方は単純に痛み以外に、味覚の異常やお口の乾燥感など口腔内の触覚や味覚にも異常感を訴えます。そのような症状の多様性は、複数の原因が併存していることの現れと考えられます。

仮説のレベルですが、脳内の複雑な神経回路のバランスや活動の乱れ、考え方や記憶など高いレベルでの脳機能の歪みなども想定されてます。下の図は、私の師匠が作ったものですが参考になります。あちこちで使い回しをさせて頂いておりまして、誠にすみません(^^;

難しいので簡単にいいますと、お口の痛みを感じる脳の機能のバランスが崩れて、中枢を巻き込んだ一種の神経痛のようなものが起きていると考えられています。まだまだ、難しいかもしれませんね。

それと、歯科治療がきっかけになった方も多いのですが、あくまで「きっかけ」であって、「原因」ではありません。誤解されやすいので説明を追加しておきます。あそこの歯医者さんに行ってからと考えていらっしゃる方もいますが、たまたま「きっかけ」になっただけですので、歯科の先生の治療が「原因」だったというように結び付けないようにしてください。よくお聞きすると、むしろ同じ頃に、家事や仕事が忙しかった、疲れがたまっていた、風邪や病気になったころだった、睡眠不足が続いていた、など心身の疲労や、体調に絡んだ問題、その他、家庭や仕事でのストレス、などの「きっかけ」があった方が多いようです。

では、今回はこの辺で。次回は、治療法について触れていきます。

舌痛症について(4)チェックリスト 2016.10.11

またまた舌痛症の続きです。

前回まで、鑑別される舌に痛みが出る代表的な病気について触れました。

今回は、それらを含め診断にあたってのチェックリストをまとめておきます。症状の概説のページで舌痛症の簡易チェックリストを載せていますが、もう少し詳しい内容になっています。

実は舌痛症は世界的にも未だ確立された診断基準がないため、あくまで私案ですが、概ね研究者の間で総意が得られているものと大差はありません。

① 舌や唇、上あごなどお口の粘膜のヒリヒリ、ピリピリとした痛みが3か月から6か月続いている。

② 舌に痛みが出る器質的な病気が否定される。カンジダ症、口腔乾燥症、口腔がんなど口腔粘膜疾患や、貧血など内科疾患、歯や被せ物の不具合などがない。

③ 症状に変動性がある。朝より夕方や夜の方が悪い。日によって違う。場所も移動することがある。

④ 食事も摂取できる。寝ている間は大丈夫。何かに熱中するとまぎれる。

⑤ お口の乾燥感がある。苦いとか辛いなど味覚の障害がある。口がザラザラ、ベトベトしたり、渋柿の渋など、異常感覚がある。

⑥ アメやガムを口にすると和らぐ。

⑦ ビタミン剤、痛み止め、軟こう、うがい薬が効かない。

⑧ 歯科治療がきっかけとなることが多い。義歯や被せ物が入れ難い。

⑨ 真面目で几帳面な、中高年の女性に多い。

これらのうち、複数当てはまるなら舌痛症の可能性が高まります。

今回は、この辺りで。